はじめに
1200年の都・京都には、ガイドブックには載らないけれど、歴史上の人物にまつわる特別なエピソードを秘めた神社仏閣が数多く存在します。
「瀧尾神社(たきおじんじゃ)」もその一つ。
今回は、全国随一の巨大天井龍と、名工が刻んだ多彩な霊獣たちをご紹介します。
瀧尾神社の魅力
太陽神や豊穣神と並んで、龍は、古今東西、世界中で信仰されてきた存在です。
国や地域によって身体的特徴や役割は少しずつ異なります例えば、中国の龍は4本爪、日本の龍は3本爪が一般的です。日本の龍には、中国の龍のような政治や社会の秩序を象徴する意味合いはあまりありません。また、西洋のドラゴンは火を吐き、しばしば悪として描かれます。が、日本の龍は水や天候を司るとされています。

その流麗な姿は、寺院の襖絵や神社の手水舎などで頻繁に目にすることができます。
しかし京都・東山の瀧尾神社には、ここでしか出会えない特別な龍がいるのです。

境内の見どころ
天井を舞う巨大木彫りの龍
ここでしか出会えない龍――それは、拝殿の天井にいる全長8メートルの巨大木彫りの龍です。
天井画の龍は珍しくありませんが、天井に彫刻された龍は極めて稀です。
中でも丸彫りの例は、私が確認した限りでは瀧尾神社だけのようです。1


この龍は、江戸時代後期の彫刻家・九山新太郎の作。
あまりに精巧で迫力があるため、「夜な夜な近くの今熊野川へ水を飲みに出ていた」という伝説が残るほどです。
それゆえ、かつては龍が抜け出さないよう天井に金網が張られたこともあるそうです。


多彩な霊獣たちの競演
この神社の魅力は、龍だけにとどまりません。
本殿には十二支、手水舎には麒麟や海馬など、すべて九山の手による多くの霊獣が彫られています。





木目を生かした緻密な技術と躍動感あふれる表現は、まさに職人技の極地。
一つ一つが細部まで作り込まれており、見応えは十分です。2

由緒とご利益
創建年代は不詳ですが、前身は平安時代に存在した武鵜社とされています。3
応仁の乱で焼失。後に再建されましたが、豊臣秀吉の都市整備で現在の地に移転。
江戸時代中期に「瀧尾神社」と改称されました。


主祭神とご利益
主祭神は大己貴命(おおなむちのみこと/大国主命)です。
大国主命のご利益は多岐にわたりますが、この神社は特に商売繁盛や仕事運向上で知られています。
大丸創業者・下村彦右衛門がこの神社を深く信仰し、社殿の再建に尽力したことも影響しているようです。
龍神とのつながり
現在、境内には大黒天、弁財天、毘沙門天も祀られますが、龍神は祭神ではありません。
にもかかわらず、このように立派な龍の彫刻はあるのは、現本殿が貴船神社の奥院旧殿を移築したことに由来するようです。
貴船神社の祭神は、水を司る龍神・高龗神(たかおかみのかみ)ですからね。
祇園祭とのつながり
九山新太郎は大船鉾の船首に取り付けられた龍頭を手掛けており、祇園祭とも深い関わりがあります。
大船鉾は幕末の蛤御門の変での焼失後、2014年に150年ぶりに復帰。
二代目の龍頭は、瀧尾神社の龍の彫刻をモデルに作られました。
そのご尊顔は、この記事のアイキャッチとまさに生き写しです。
さいごに
瀧尾神社は、狭いながらも「知る人ぞ知る」美の穴場です。
JR・京阪「東福寺」駅から徒歩1分という好立地。
東福寺や伏見稲荷を訪れる際に、足を伸ばしてはいかがでしょう。
ぜひ匠の技を味わいながら、1200年以上培われたご加護に触れてみてください。
住所、アクセス等
| 神社名 | 瀧尾神社(たきおじんじゃ) |
| 住所 | 〒605-0981 京都府京都市東山区本町11丁目718 |
| TEL/FAX | TEL 075-531-2551 |
| アクセス | JR「東福寺」駅下車徒歩1分 京阪「東福寺」駅下車徒歩1分 京都市営バス「東福寺」下車徒歩3分 |
| 拝観料 | 無料(※拝殿の龍を間近で見られる昇殿参拝は500円) |
| 公式サイト | 瀧尾神社 誠龍会のサイト |
脚注




