はじめに
かつて日本では、初夢が吉夢ならその年は良い一年になると言われていました。
それなら、良い一年にするために、初夢を吉夢にすればよいのでは?
そんな強引なおまじないが、日本では100年ほど前まで行われていたのです。
初夢宝船とは
おまじないの名前は初夢宝船。
宝船に乗る七福神と和歌が描かれた紙を使います。
少なくとも室町時代には存在しており1 、その後も江戸時代には年末に初夢宝船売りの行商人が現れていたり、大正時代には神社で初詣の参拝者に配布されていたり、明治時代の新聞では正月の風物詩として挙げられていました。
でも戦前にほぼ途絶えてしまったので、現代で知る人はほとんどいません。
初夢宝船のやり方
やり方は次の通りです。
① 初夢を見る前の晩、初夢宝船を用意します。検索した画像を印刷すればOK。
② 紙に書かれた和歌「なかきよの とおのねふりの みなめさめ なみのりふねの おとのよきかな」2を、寝る前に三回唱えます。
③ 紙を枕の下に敷いて寝ます。
以上。超簡単です。
初夢はいつ見る夢か
4つの説
ところで初夢はいつ見る夢のことでしょう?調べてみると4つの説があるようです。
① 大晦日(12月31日)の晩
室町時代から江戸初期までの説。
② 元日(1月1日)の晩
江戸中期(天明)から後期にかけての説。当時は、年越しの夜に寝ない習慣があったからだそうです。
③ 1月2日の晩
江戸後期以降の説。新年の行事(初商い、書初めなど)の多くが二日に行われていたからだそうです。
④ 節分の晩
そもそも、初夢は節分の晩に見る夢だったそうです。
平安末期に書かれた『山家集』3には、「立春の朝よみける」と添えられた初夢の短歌があります。
江戸では一月説が主流でしたが、京阪神では二月説が長らく支持されていたようです。
まとめ
初夢を見る日は庶民の生活習慣の変遷によって変化してきました。ちなみに明治の改暦以降は、② 「元日の晩」説が主流だそうです。
なお、立春は「太陽黄経が315度の時」なので暦の新旧や習慣などに影響されません。もし一月に吉夢の初夢を見損ねたら、二月に再チャレンジしてもよさそうです。
凶夢を見た時
本来、初夢宝船で凶夢を見たら夢見に使った紙を川に流して「なかったこと」にしていました。江戸時代の川柳には、新年に川の澱みに初夢宝船の紙が大量に溜まる様子を詠んだ歌もあります。
しかし現代では自治体の条例などでゴミの河川投棄は禁止されています。うっかり凶夢を見てしまったら、紙で少量の塩を包み、燃えるゴミの日に出す4などの方法で処理してください。
もし凶夢の内容が、葬式か火事なら問題ありません。「一富士、二鷹、三なすび」の続きには通常版5と逆夢版があり、逆夢版は四葬礼、五火事だからです。
和歌が回文になっているのは、おそらくは凶夢を吉夢にひっくり返す呪術的なからくりでしょう。安全対策はバッチリです(たぶん)。初夢も吉夢も国籍を問いません。是非お試しください。
脚注